底なき鏡となりて——欧羅巴の様式美に、日本のアンニュイが映りこむ。シルバージュエリー“Superbia”

タイトル画像"Superbia"ミツギ・L OTHER

底なき鏡となりて——欧羅巴の様式美に、日本のアンニュイが映りこむ。
Profond miroir
シルバージュエリー“Superbia”

“美”と“醜”。相反するものと対面する。

ロココ・バロック調のエレガントな曲線の中に、よく見ると人の顔が入りこんでいる。グロテスク様式とは、本来、人間や動物、植物などを組み合わせた装飾芸術様式のこと。しかし日常的に使われる「怪奇・異様」といった意味も“Superbia”には似合う。デザイナーのことばを借りるなら、「醜悪」。すべてのジュエリーはマットな仕上げで、これもアンダーグラウンドなテクスチャーを与えるためだ。

デリケートで耽美的でありながらも、荒っぽさと醜悪なものが潜む。デザインのほとんどがアシンメトリー。すべてにおいて、矛盾を抱えている。それがこのブランドの大事なバランスだ。

 

設計図はない。イメージだけが手を動かし、精緻に蝋を削り出す。

ブランドの誕生は2016年と若いが、すでに国内のみならず海外にも熱狂的な支持者を持つ。デザイナーのYosuke氏は、それまで自身のブランドを持たず、オーダーメイドを受注し、ジュエリーの専門学校で指導をしていた。
ある日、妻が何気なくSNSでシルバーのバックルを掲載したところ問合せが殺到。“Superbia”を立ち上げるきっかけが訪れた。

手法は伝統的なロストワックス。蝋でプロトタイプを作って石膏の中に埋めこむ。焼き固めて蝋を蒸発させ、そこへ銀を流しこむ。絵は苦手で描かないし、設計書もない。アイディアは殴り書き程度。イメージが手を動かし、蝋を精緻に削り出す。

 

ヨーロッパと日本のアンニュイが融合する。インスピレーションの源は。

昔からヨーロッパの古い建築物が好きだった。城に限らず、古びた家や朽ちた城壁だけの灰色の景色、枯れた花。時間が経過し、止まったもの。Yosuke氏はそう語る。
画家はペクシンスキー。60年前のカルトムービー。モノクロの無声映画。音楽はアンビエント。遠くでパイプオルガンが鳴っているような、宗教音楽のようなものを好んで聞く。

しかし、ここに日本のカルトチックなアートも並んでくるのが重要だ。
漫画家は弐瓶勉。造型師では竹谷隆之、韮沢靖。小説家・江戸川乱歩や、画家の山本タカト、昔の円谷プロが作ったモノクロ映像作品のざらついたヴィジュアル。そして、日本の大正時代のムードからも影響を受けているという。

「大正時代って、今じゃなかなか見られない空間で、洋風と和風が入り混ざっちゃったような屋敷とかあるじゃないですか。洋館の中にいる人は着物着てたりとか。そういうちぐはぐな感じが面白いんです」

美術様式とシルバーアクセサリーそのものが持つヨーロッパ的なイメージ。ただ日本人が外国の文化に勝負を挑むのではつまらない。綺麗なものを作ろうとすると、家具の一部を切り取っただけのような面白みのないものになる。「顔」のモチーフを入れこむことで、日本風のデカダンや不気味さも織りまぜる。

底なき鏡となりて。止まった時に“ノスタルジー”が輝きだす。

もっとも注目を集めているアイテムが“ノスタルジー”リング。鏡が嵌め込まれているようにも見えるが、すべてシルバー。鏡面仕上げを施している。すこしでも油断すると歪みが出てしまうため、ひとつひとつ手間と時間をかけて丁寧に磨きあげる。

“ノスタルジー”リング (シルバー925 縦幅・約27mm 厚み・約6mm)¥32,400/“フェイタルミラー”ペンダントトップ(シルバー925 縦幅・約52mm 厚み・約5mm)¥48,600/“オーナメンタル”チェーン2(両フック式)¥ 49,680/PHOTO:Superbia

ブランドには珍しくシンメトリーのフォルム。しかし鏡を支えるのは、表情の違うふたつの顔とスカル。スカルはシルバージュエリーにおいてメジャーなモチーフだが、独創性にこだわるSuperbiaにとっては、あくまでも死の象徴や、生きていた証としてのモチーフだ。すべてのアイテムの根底に流れるのは、ブランドのシグネチャーともいえる、過ぎ去った時間。

「太古のロマン。それとも違う。なんて言ったらいいんですかね。廃墟とかのうち捨てられた感とか、前は人が生活していただろうものが捨てられたとか、そういう感覚が好きなんです」

哀切にも見える顔と朽ちたスカルは何を思うのか。廃墟に忘れ去られた鏡に、過ぎ去りし日々と、郷愁(ノスタルジック)が閉じ込められているかのよう。

メジャーには迎合しない。ジャパニーズ・クラフトマンシップが生み出す装着感。

日本のシルバーアクセサリーの世界では、地金の重さに価値をおく傾向にある。しかしファッションとは日常のもの。疲れてしまうのでは愛用はできない。なおかつバイカーでもあるデザイナーにとっては、ジュエリーを身につけたままグローブを嵌められることはあたりまえ。

「グラム数を増やすことは、キャンバスが大きいということ。平面をいかに立体的に見せるか。自分はできるだけコンパクトななかで、緻密な加工をしたいんです」

 

 

すべてのジュエリーは、ブランドのバックアップを請け負う妻の怜氏が厳しく装着感を確認するため、女性の手にも優しく疲れにくい。華奢でエレガントなアイテムは、カジュアルでもラグジュアリーでも、テイストを限定しない。
「装着感は、写真では伝えるのが難しいから、ぜひ実際に手に取って試してほしい」——公私ともにYosuke氏の力強いパートナーである怜氏はそう語る。現在Superbiaのコレクションは、ディーラーショップやイベントで身につけることができる。

 

“ロココ”リング4 ¥14,040/”ロココ”リング5(ペアリングに使用) ¥8,640/”ロココ”バングル¥16,200(すべてシルバー925)

「傲慢になるなよという戒めでもあり、傲慢でありたい」。ブランドネームに込められた終わらぬ闘い。

自由と権利のために、主である神へ反旗を翻した大天使ルシファー。彼を象徴するキリスト教、七つの大罪「傲慢(Superbia)」を名に冠するブランドは、デザイナーの終わりなき自己との闘いを意味している。

「技術的なものに対しては、誰にも負けない自信はある。でも、できあがったものに対しての自信はない。なぜなら、誰もが見慣れていないものを作っているから。完成品に悦に入ることもあります。でも、次の作品にとりかかれば、新作のほうが良いに決まっている」

そして、大罪であったとしても、「傲慢」を封印してしまうと人間らしさがなくなる。傲慢だとしても、それも自分らしさだとYosuke氏は語る。このアンビバレントこそが、Superbiaのすべてを構成する。

 

職人ではなく、作家でありたい。

精緻でブレのないアシンメトリーなシルエットを実現できるのは、ストイックに高められた技術あってこそ。しかしYosuke氏は「職人ではなく、作家でありたい」と言う。技術は機械でじゅうぶん。デザインを考えることは、機械にはできない。

「ファッションのためにものを作る。すると制限ができるんです。デザインも、見た目も。差し障りのない、クラシックなデザインの焼き増しをひたすら作ることになります。独自性を出して、なおかつファッション系であることを崩さないことは、ものすごく難しい」

あくまでファッションアイテムであることを維持しながら、表現を高めていく。将来的には何にも縛られず、アーティスト活動をメインにし、実用性を問わないオブジェのようなものを作っていくことがYosuke氏の目標だ。

自分にも音楽にも一瞬の満足もない。自信がないから、自分を見るんです。

モデル・ミュージシャン/ミツギ・L(フランス)

「フランスでは、シルバーリングは成人のときに家族から贈られるもの。僕ももちろん大事にとってあります。Superbiaのデザインは、生まれ育った街も思いだしたりもしますね」

生まれたのは、フランスのアラス。北のほうにあるちいさな街だ。すぐに引っ越しをしたから記憶にはない。母とふたり、1年に3回も引っ越しをしてフランスのあちこちに移り住んだ。一番長く住んだのはトゥールーズ。建物がすべてピンク色だった。モデルをつとめたミツギは、流暢な日本語で懐かしそうに語ってくれた。

「ニースにも住んだんですが、日本人が多くて、20〜30歳の大人の日本人に囲まれて育ちました。近くのCDショップにアジアコーナーがあって、そこで日本のロックに出逢ったんです。僕は6歳くらいで、L’Arc-en-Cielの『DUNE』を聞いて、すごく衝撃を受けて。玉置浩二さんも好きでした。実は日本に来てから、ライヴでご一緒させていただいたこともあるんですよ」

ミュージシャンとしても活動するミツギが日本にやってくるのは、ほとんど自然なことだった。日本では仲間や先輩のビッグアーティストに囲まれて楽しく過ごしている。TVCMやバラエティ番組にも出演して、名前を知ってくれる人も増えてきた。順調のように見えるミツギだが、フラジャイルな一面も見せる。

「“ノスタルジー”リングを見て、ギリシャ神話のナルキッソスを思いだしました。自分の指に鏡を持つ。自分のなかにあるナルシスム。僕はナルシストと言われてしまうことが多いんですけど、自信がないからこそ自分をよく見ているんです。だから自信を持てるようになりたいし、良い意味でナルシストと言われるようになりたいですね」

「モデルとしての自分にも、ミュージシャンとしての自分にも不満があります。一瞬の満足もない。もちろんそのときは全力でクリエイトしているし、良いものを作っているとも思っている。だけど、もっとがんばらなくちゃと思っている。他の人と比べるなと言われるけど、比べちゃう。だからSuperbiaの精神には、どこかで共感できるんです」

ヨーロッパに日本のカルチャーが溶け込み、ジレンマを抱えたジュエリーのモデルを選ぶとしたら、やはり彼こそ適任だった。

ミツギ自身もカメラが好きだから、撮影中も「こうしたらどう?」とチームの一員として積極的にアイディアをくれた。クールになるのはシャッターを切る瞬間だけ。おかげでハードな作品をモチーフにしながらも、アットホームでクイエイティブな素晴らしいロケになったし、クルーの全員が笑顔で楽しかったと繰り返すほど。
撮影終了後には、カメラマンと大好きなMARVELごっこで盛りあがる顔はまるで少年。“日本人より日本人なフランス人”の異名を持つ彼らしく、気さくにクルーに溶けこんでいた。

Superbia

左から:”受難”キーフック ¥91,800/”ロココ”リング4 ¥14,040/”ロココ”リング5(ペアリングに使用) ¥8,640/”フェイタルミラー”ペンダントトップ ¥48,600・”オーナメンタル”チェーン2(両フック式)¥ 49,680/”ノスタルジー”リング ¥32,400/”ロココ”バングル¥16,200(すべてシルバー925)

お問い合わせ
Superbia
http://superbia-baw.com/
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主な取り扱いショップ

Silver Geeks(東京)

PHOTO:Kahori Yoshida https://www.yoshida-kahori.com
MODEL:MITSUGI.L Twitter Instagram
MANICURIST:Megumi Kutsuzawa
PRODUCER・TEXT:Kaori
COOPERATION:Ryo(Superbia)
SUPPORT:Eri Yoshida