レスリー・キーが写したサムライの姿。里見浩太朗&京本政樹主演・舞台「赤と黒 サムライ・魂」で見る生の時代劇【エンタメで囓る日本】

赤と黒 サムライ・魂 エンタメで囓る日本

今、幸いにも日本にいて、しかもサムライが好きなら朗報がある。
東京、大阪、愛知で、その姿を見ることができるからだ。

日本の観光地やテーマパークで、殺陣ショーを見る機会もあると思う。日本人にとっても滅多に見られないものだから、その迫力には圧倒される。
けれども、本来の闘いは、そこに至るまでにストーリーがある。サムライたちは、国のため、罪なき人を護るため、愛するものを護るため、刀を抜く。

舞台「赤と黒 サムライ・魂」は、日本の映画や時代劇の歴史を作り上げてきた、本物のスターが見せる芝居と殺陣だ。

出演する時代劇大御所・里見浩太朗と人気俳優・京本政樹の舞台初競演作品で、ふたりとも、日本を代表する有名な俳優だ。
さらに、多彩な俳優たちが登場する。

【エンタメで囓る日本】——今回は、伝統芸能・時代劇を囓ってみる。

■日本のTV・映画史、時代劇には欠かせないふたりの主演俳優

日本でのテレビの歴史は半世紀以上も前にさかのぼる。その初期から活躍しているのが、里見浩太朗だ。
当時はさまざまな時代劇映画が制作され、大いに盛り上がっていた。黒澤明監督の「七人の侍」、「羅生門」など、海外でも有名な作品が生まれたのもこの頃だ。

1970年代にはTV時代劇が絶頂期を迎え、数々の名作が生まれた。毎日どこかのチャンネルで時代劇が放送され、日本でもっともポピュラーな時代劇といえる『水戸黄門』も人気を博した。

その『水戸黄門』で、主役もつとめたのが里見浩太朗なのだ。
名だたる映画に出演、TV時代劇でも『長七郎江戸日記』などで数々の主役を演じ、人気を不動のものにした。
優しげな面立ちだが、キリッとした眼差しと、低音ボイスの色気。しかも”二刀流”まで操る。憧れのサムライの姿だろう。
もしかすると、海外にいる人も国営放送のNHK・大河ドラマなどで見たことがあるかもしれない。日本の時代劇や映画の世界とは、切っても切れない存在である。

「赤と黒 サムライ・魂」の里見浩太朗

里見浩太朗
(撮影:曳野若菜)

京本政樹は、そんな里見のあとに時代劇の世界に入ってきた。
愁いを帯びたようなミステリアスで美しい顔立ちで、鍛練を積んだ刀捌きは舞い踊るかのようだ。
映画では、日本を代表する名監督・深作欣二の映画『里見八犬伝』(1983)で美しい剣士役で注目を集める。現代ものでは、カンヌ映画祭にも出品された『雪華葬刺し(IREZUMI)』(1982)に出演。
その直後、ダークな作風のTV時代劇『必殺仕事人Ⅴ』に出演。美麗な”抜け忍”の殺し屋姿に、若い女性が熱狂し、一世風靡した。現代ものドラマでも有名だ。

時代劇に登場する主役級のサムライは、大きくわけて2パターンあると思う。
黒澤明映画に出てくるような、勇ましく、雄々しい、日に焼けた豪傑。
もしくは、中性的で、どこか妖しげな美しさを持つ色白美少年の剣士。

里見と京本は、どちらかといえば後者で、その魔力的ともいえる魅力で、それぞれ80歳、60歳を超えた現在でも女性ファンの心を掴んで離さない。

京本は、『水戸黄門』に登場する人気”くノ一”、いわゆる女忍者である「かげろうお銀」を主役にしたスピンオフ作品『かげろう忍法帖』にも出演。クールな忍者キャラクターの人気が高まり、本編にも出演した。
しかし、里見と京本は『水戸黄門』では共演していない。他のTV時代劇ではいくつか共演を果たしたが、舞台に至っては、今回の「赤と黒 サムライ・魂」が初めてとなる。

開演前の記者会見で、ふたりはこんなことを語っている。

◆里見浩太朗
「僕も82歳になって出させていただくのは思ってもみなかった。京ちゃん(=京本政樹)はじめ、若手はすごい立ち回りをやっています。本当に溌剌としてて、一生懸命やっている。僕はそれに一生懸命ついていくみたいな立ち回りでやらせてもらっています。久しぶりの本格的な時代劇を、みなさんに観ていただきたいという気持ちです!」

◆京本政樹
「里見先生は、ずっと憧れの方だったんです。「京ちゃん」と声をかけていただいて『京ちゃんとレギュラーやったこと、ないね』って、意外や意外な!(舞台)初共演! これだけでも必見! また、「時代劇」を知らない若手が一生懸命やっている、感動しているんです。かっこいい!」

■戦国時代が終わった世に、武士道精神を問いかけるストーリー

物語の舞台は、戦国時代が終わり平和になった日本の、とある町だ。
サムライたちは闘う必要がなくなり、ある者は官職を辞めて庶民として働き、またある者は流浪するようになった。

主人公・柘植半四郎(里見浩太朗)は、藩主の代わりになる国家老まで勤めた男。主君の失態でお家の断絶にあっても、最後まで仕えた武士の鑑といわれる、剣の達人だ。
しかし現在は、サムライを棄て、子どもたちに勉強を教える先生になっている。

ある日、町が藩政改革のために取り壊されることになった。庶民たちは嘆き悲しみ、そして改革の真相を知り、憤る。
困り果てる庶民たちを見て、柘植半四郎のサムライ魂が蘇る。

命をかけて立ち上がる庶民と、若きサムライたち。
そして、変わり果てた武士の生き方に嫌気がさし、サムライを棄てた孤独な剣豪、“奏の市蔵”(京本政樹)。彼もまた、柘植半四郎とともに悪と闘う決意をする。

悪には屈しない。迎合しない。負けるかもしれないとわかっていても闘う。
サムライとはこう生きるべきだという、強いメッセージが伝わってくるストーリーだ。

■日本語がわからなくても殺陣と衣装、音楽を楽しんで

この舞台には、英語字幕や解説はない。日本語がわからない人にとっては、セリフや細かい設定を理解するのは難しいだろう。

しかし、時代劇は、見た目や動きによって、おおよそのキャラクターの立場がわかるのが魅力だ。
そして、大人数が入り乱れてのダイナミックな殺陣シーンだけでも、きっと満足できるはず。何せ、時代劇を作ってきたスター、里見浩太朗と、京本政樹の本物の殺陣なのだ。
紹介したあらすじを押さえておけば、楽しく観られると思う。

衣装も楽しみのポイントになる。同じ和装でも、着物や髪型は立場によって違う。
町娘、身分の高い女性、遊女。
日本の日常ではもちろん、レンタル着物屋でも見ることができないバリエーションだ。

男性も、町人と、役人などのサムライでは別物になる。
サムライでも、藩に勤めている人と、勤めていない”浪人”では雰囲気が異なる。
今回の京本が演じる”奏の市蔵”は浪人。サムライであり、刀を差しているが、”ちょんまげ”姿ではないのが特徴だ。

そして、三味線や太鼓を使った日本ならではの音楽も楽しんでほしい。
しかも、オープニングでも目立つ哀愁漂う楽曲は、シンガーソングライターでもある京本政樹による作品だ。

■キービジュアルとパンフレットは、レスリー・キーによる撮影

今回、驚いたのは、カメラマンに、あのレスリー・キーを起用したことだ。
シンガポール出身の彼は、東京で写真を学び、ファッション写真や広告写真をメインに世界で活躍してきた。
トップモデル・冨永愛も撮っているし、モデルに限らず、数々の日本の著名人を撮っている。
しかし、時代劇とは。想像もしていなかっただけに、個人的に何倍も嬉しかった。

これだけで、制作陣から時代劇を新しい世代に継承していきたいという意気込みを感じる。
実際に、レスリー・キーが撮ったサムライたちは、ポージングはもちろん、背景の障子をとっても、新しい切り取られ方をしている。

数々の貴重な写真とレスリー・キーからの熱いメッセージは、ぜひパンフレットで確認してほしい。

■制作が難しい時代劇、生で見られることはすでに奇跡的

最近、サムライが活躍するアニメやゲームをテーマにした、“2.5次元”と呼ばれる時代劇の舞台が増えている。
これだけでも日本のカルチャーを感じることはできるかもしれないが、「赤と黒 サムライ・魂」は、また別物だ。あくまで往年のTV時代劇を、そのスターを生で見て感じられるのが魅力なのだ。

往年——。実際に、日本のTV時代劇は、ほとんどなくなってしまっているのだ。

時代劇は、作るのが難しいと言われている。
現代ものと違い、江戸時代や戦国時代などのセットや衣装、小道具など、制作費が莫大になる。そして、所作や殺陣、伝統的な文化を知るスタッフの高齢化や逝去も大きな問題だ。

今、生の時代劇を、しかも当時からのスターで観られるこの舞台は、貴重で、奇跡的とさえいえるのかもしれない。

■「海外の方にも観て知ってほしい」——時代劇を次世代に継承する試み

さらに、時代劇役者が育たないという現実もある。
歌舞伎から流れをわけ、活動の場を映像に移した役者たちからできあがったのが、時代劇の世界だ。
里見や京本は、かつてそんなレジェンドの役者から現場で基礎を叩き込まれ、スターになった。

ただでさえ敷居が高い伝統芸能が新たに進化したものだから、経験のない役者にとっては簡単ではない。しかし、今は時代劇が放送されなくなってきていることで、継承の場も失われつつあるのだ。

この窮地に熱い想いを持つ時代劇役者は、少なくない。
中でも京本は、当時を知る最年少の後継者のひとりといえる立場から、どうにか復興・継承できないかと活動している。
漫画作品への登場や、2019年に海外でも話題になった映画『翔んで埼玉』で演じるキャラクターに時代劇要素を盛りこむなど、フィールドを広げて挑戦し続けているのだ。

舞台「赤と黒 サムライ・魂」の京本政樹

京本政樹
(撮影:曳野若菜)

今回の舞台には、1986年生まれの越岡裕貴(ふぉ〜ゆ〜)と、1991年生まれの福士申樹(MADE/ジャニーズJr.)をはじめ、ミレニアル世代の俳優が登場する。
里見や京本に殺陣の指導も受けたふたりは、貴重な機会だと語っている。

京本は舞台の開幕にあたって、記者会見で「海外の方に観て、知っていただきたい」と語っていた。
里見も、来日するトランプ大統領に「(首相との)ゴルフより、こっちのほうが面白い」とメッセージを語り、会場を笑いに包んだ。

海の向こうでは、サムライやニンジャの人気は衰えない。
むしろ海外のほうが価値をわかっているかもしれないのだ。

トラディショナルな時代劇への愛を持ち続ける大スター2人と、次世代の若き俳優たちの共演。
そこに世界的な写真家、レスリー・キーの参加となれば、これまではない客層を呼び込めるだろう。

東京公演は、残り僅かの2019年5月31日まで。大阪は6月5〜9日、愛知では6月21日のみ。
2時間20分、サムライがいた頃の日本の風景と、”サムライ魂”、そして伝統芸能を、ぜひ外国人の読者にも楽しんでもらいたい。

難しそう? 堅苦しそう? そんなことはない。
声を大にして言いたい。
単純に、カッコいい、イケメンの剣士たちが観たいという動機だけでもじゅうぶんだ!

(文・Kaori/翻訳・Masaya)

舞台「赤と黒 サムライ・魂」

【出演】
里見浩太朗
越岡裕貴(ふぉ〜ゆ〜) /福士申樹(MADE/ジャニーズJr.)
合田雅吏/堤下 敦(インパルス)/市川知宏/山崎裕太/姜 暢雄/大門伍朗
藤井びん/ジジ・ぶぅ/まいど 豊
熊谷魁人/佐藤銀平/伊与勢我無/重見成人/小川敏明/森 公平/石黒洋平/櫻井紗季(東京パフォーマンスドール) 脇春/上原恵美/則松亜海/黒田こらん
小川菜摘/不破万作
京本政樹 ほか

【監修・原案】 佐藤幹夫
【上演台本・演出】 モトイキ シゲキ
【殺陣】 渥美 博

【日時】
<東京>2019年5月25日(土)〜31日(金)東京国際フォーラム ホールC
<大阪>2019年6月5日(水)〜9日(日) クールジャパンパーク大阪TTホール
<愛知>2019年6月21日(金) 東海市芸術劇場

詳細・お問い合わせ・チケットの購入は公式サイト(https://www.samurai-stage.jp/)へ